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高校時代〜ガラスのブルース〜
藤原 「“ガラスのブルース”は、学校辞めてゆっくり、ちょっとずつ書いていった曲で」
直井 「その頃、みんなそれぞれのことやってたんだよね。ヒデちゃんとヒロは高校生で、俺は調理師免許と大検の勉強という、そういう感じの期間で。いろんな気持ちがあってすげー複雑だった。……でも前向きだったかな」
藤原 「覚えてんのは、とにかく3人がウチに来てくれたじゃん。でまあ、ゲームやったり話したり。 俺寝てたりとか(笑)そういう感じで。俺の生活は……バイト探しに行って、 実際やってみてソリが合わなくて辞めたり。1日とか、長くて1週間とかね(笑)。4個ぐらいやった。やっぱみんな、俺がバイト決まったって言うとすごい喜んで、辞めちったってなるとすごい心配そうな感じで(笑)。でもなんか、ほっといてくれよ感も俺の中にはあって。ダメな感じのほっといてくれよ感。 そいで…………初めてそこで、自分の存在とか結構軽いなぁみたいな(笑)、『ああ存在の希薄さよ』みたいな、そんなことを思った。 なんか薄っぺらいって感じがした。サイズの問題じゃないの。厚さの問題。ほんと薄かった。景色が透けるぐらいのペランペランさ。 そんなような存在だな、と。いてもいなくてもみたいな、そこまで考えて。 それに感慨があったわけじゃなくね。『俺っていてもいなくても取るに足らない存在なんだな、はあ』ってそういうんじゃなくて、ただその事実を知ったの。 ビックリしちゃった。で、その間にやってた作業ってのが、ほんと1日1行ずつぐらいの感じで、”ガラスのブルース”の詞を書いたり、コードを繋げたり、メロを繋げたり。 すげーゆっくり書いてたの。……そ れは明日に向けてとかいう意識は全然なくて。この作業が終われば何かがあるかもなって漠然としたもんはあったかもしんないけど、俺は音楽で食ってくことになるとかっていう気持ちがあってとかじゃなくて、それよりももっとプリミティ ヴな感じだった。なんか表現してみたくなったんじゃないかな。……『楽しいぜ』とかそういうんじゃなくて、もうなんか『俺です』みたいな、IDカードを作りたくなったんじゃないかな、おそらく。学校で『IDの作り方』みたいな説明書が配 られて、それになぞってIDカードを作って、それを我がもの顔で提示してる学生って多いと思うの。で、俺も漏れなくそれだった感じがするんだ。でもなんか……あれは誰かが用意してくれた鏡に自分を映して、『これが僕です』つって人に見せてただけなんだなっていう、ね。すごい外的なもので。で、もっと内側に入った時っていうのはどこにも鏡がないじゃん。だから、鏡を作ってたんだろうな、きっとな」
増川 「なんか……よく藤原の家に行ってたのは、ちょっと心配って気持ちがあったから。なんか……ずっと家にいたからさ」
藤原 「それを俺は全然素直に受け入れられなかった。友達って感じは嬉しかったんだけど。だからつかず離れずみたいな感じ、3人に対する姿勢としては。それ以上は踏み込んで欲しくはないんだけど、でも離れて欲しくもねえみたいな感じで。すっごい厄介だったな(笑)。それでも火曜日の練習だけはしてたんだよね」
「まあ、練習ではないけどね(笑)、会ってたよね。集まって、練習したり何かしたり。その集まることが第一って感じ。別に藤原のリハビリとかって意識はないんだけど」
増川 「そういう意識はないね」
藤原 「俺もう、リハビリとかしようと思ってなかったし。逃げてたよね、完全に。逃げ込んでるだけ。リハビリってだってこう、立ち向かう感じじゃん。そういう言葉は絶対似合わないと思う。でも、腐ってたかっていうと……まあ腐ってたんだけど、”ガラスのブルース”は書いてたんだよね、ちょっとずつちょっとずつ。でも自覚的なものはひとつもなかった。……やることなかったんだろうね。やることなかった。空っぽになった、ほんとに(笑)。……あの虚無感はものすごいものだった。……”ガラスのブルース”はさ、1回拒否した世界に対する俺のアンサーだったんだと思う。…………愛しい気持ちだよ、きっと。自分ていうほんとに矮小な存在に対する気持ちだったり、あと……すごく斜めに見ることを覚えてしまったから、そっから真っ直ぐ見直すことが出来なくなってしまったから。結構今でもそうだったりするんだけど。目に映るものっつーか感じることっつーか、そういうのを斜めなまま愛しく思える気持ちはあったんだけど、それを否定してたと思う、当時の俺は。でもやっぱ、それこそが俺自身を否定することであって。そういう意味で、”ガラスのブルース”が完成することで俺は救われたんだと思う。あの曲が出来た時…生きて行こうって思った。ふふっ。ベクトルや形がいかなるものであっても、時計が動いて呼吸が続く限りは生きて行こうって思ったんだよね。…………で、それを3人に持ってった。『曲が出来たー!』みたいな感じじゃなく、『1曲出来たよ』みたいな感じで持ってったの(笑)」

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