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バンプ・オブ・チキン〜大学受験〜
「それでまあ、受験の間俺らもライヴ休んで。月1ぐらいで練習はしてたけど。そん時、藤原もバイトが忙しいみたいな感じで」
藤原 「バイトやりながら曲書いたりしてた。バイトいっぱいやったよ。30個ぐらいやったんじゃないかな。全部すごかったよ、俺(笑)。売上げとかすげー良かった。服屋でしょ、香水屋さんでしょ、コンビニもやったし…あとはビルのゴミの仕分けとか。あれは今でもやって良かったなと思う。それから、カフェとかレストランとかひと通りやった。テキ屋みたいなのもやったし、八百屋さんとかもやった。だって稼がねーとやっていけないからさ(笑)」
直井 「だから、俺がなんでふたりが大学に行くってことでそんなになってたかって言うとさ、とっても羨ましかったの。だって俺、朝の5時に起きて調理場行って、夜の12時まで仕事して、その後大検のために勉強して、夜の3時」
藤原 「帰ってきたこいつと会うと、すげー油臭いの」
直井 「あとニンニク臭いの(笑)。だからほら、青春とはもう、超離れてて。3年間自分を殺してたのね。だから、4人といる火曜日だけが唯一の安らぎだったの。でも大学受けたらそれすらなくなっちゃうし。だからもう、怖かったよね。火曜日ってもんが俺にとってほんと命だったから。でもふたりの決意を聞けて。……あのね、ヒデちゃんの場合は、ちゃんと約束だったの。『俺は落ちないようにする』っていう、ちゃんと努力するっていう約束。でもヒロの場合は違うの(笑)。『俺が落ちるわけがない』とかっていう、なんか自信なの(笑)」
増川 「そうだったね(笑)」
藤原 「それで4人で誓いを立てたんだよな。まずバンドの活動をとりあえず中止しよう。勉強に必要な分だけ時間を空けよう。で、たまに合わせたくなったら合わせよう。その間、俺は俺で東京でバイトして生活しながら曲書いたり、他のバンドで助っ人としてギター弾いたりして。あと某レーベルとの橋渡しをやったりもしてた。チャマは親との約束を果たすために業務をこなしてて。で、ふたりは勉強してたの。……でもすごい面白いのはさ、よく増川から電話がかかってきて、『遊ぼう!』って(笑)。『遊ぼうじゃねーよ、お前何やってんの?』っていう」
直井 「俺ね、そん時ヒデちゃんに相談したの覚えてる。ヒデちゃん家初めて行ったもん、『俺すっごい心配してることがあるんだよ』って」
「こいつがね、夜、雨戸開けて勝手に入ってきたの(笑)」
藤・増 「ははははははは!」
直井 「(笑)いや、そんなことしたの、初めてよ?知ってた?」
増川 「知らなかった」
直井 「ヒデちゃんはね、遊んでるところを見たことがなかったの。俺が見るヒデちゃんは、ドラム叩いてるか勉強してるかっていう。でもね、ヒロはたまに焼けたりしてて。『海行った』とかよく聞いたのね(笑)。だから『俺は高校ってもんを知らないからわかんない、でもどうしても遊んでるようにしか思えないんだけど?』って聞いたら、ヒデちゃんが『いや、あいつ、ぜってー受かんねえと思う』って(笑)。……なんかヒロん家遊びに行ったら、机の上に紙があって。出席日数っていうか、遅刻が多いっていう紙が置いてあって。よくわかんないんだけど、これって相当ヤバいんじゃない?って。大学はわかんないんだけど、とりあえずこの高校って時点でヤバいんじゃない?って(笑)」
増川 「いや、でもほんとにそうだった。うーん……なんかね……」
「だから、焦ってはいるんだけど、遊ぶのも楽しい、みたいな感じだと思う。そういうのは俺はわかるけど。受験生特有の気持ちっていうのはさ」
直井 「なあ、俺らわかんねえけど」
増川 「いやいや……」
直井 「俺ら、何度も聞いたよね。でもヒロ、1回も答えてくんなかった。その……『なんで落ちたの?』ってことに」
3人 「ははははは!」
直井 「逆にキレてた」
増川 「そうだね……ほんとに最悪だよね」
3人 「(笑)」
藤原 「で、たまーに俺帰った時に練習とかしてたんだけど、ある時、なんか増川はいなくて升とチャマと俺がいて。そん時に、升に『どう、勉強頑張ってる?』って聞いたら『推薦決まった』とか言われて、『えっ!?』みたいな。超ビックリして」
直井 「それもクールにね。俺、すげーカッケーこいつ、って思ったもん。だから休止って話をした直後には、ヒデちゃん大学決まったんだよ。だから、それからしばらく3人で練習してた時期があったんだよね」
藤原 「で、増川待ってて。あまり増川が俺らの前に現れなかった時期があって。その頃もう2月とか3月とかで、升に『お前なんか聞いてないの?』って言ったら、升も『いやわかんねえ、俺が聞いたのは受験会場にあいつが現れなかったって話くらい』みたいなことを言ってて。……受かるわけねえと思ったから噴水の水飲んできてやったってのはどこだっけ?(笑)」
増川 「バカだった(笑)」
直井 「だからヒロにはシビアで聞けなかったんだよね。で、ヒデちゃんに聞くとヒデちゃんもはっきりとは知らないんだけど……」
藤原 「すげー芳しくない答えが返ってきて。すごいどんよりしたよね、俺らね(笑)」
直井 「まだ若かったし、今だったらもっと広い視点で見られるけど、そん時はそれがすべてじゃん。あり得ねえって思ったもん。でね、本人から結果を聞けないってことが一番ショックだった。そういう契りを交わしてたから、言って欲しかった」
藤原 「会ってもなんも言ってくんねえの(笑)」
直井 「で、結局、4月過ぎても何も言われなかった」
増川 「うーん……なんか俺はやっぱね……小学生中学生で勉強出来てた部分があって。……得意だったの。算数とか理科とかすごい好きだったから、高校でも理系に行ってて。それでどっかで『ぜってー落ちるわけねえ』って思ってて。甘いんだけど。それで全然もうね……落ちたんだけどね(笑)。で、言えねーって、すべて俺がダメだーって思って……」
直井 「その時期はかなり機嫌悪い感じだったよね。そのこと聞くと『いや、わかんねえよ』て感じだった」
藤原 「なんか『すぐにわかる感じじゃないんだよね』みたいな。俺ら大学受験なんて全然知らねーから、『あ、そうなんだ』みたいな」
直井 「で、結局、1年間待つって決めて待ったわけだから、俺らもう待たねーわって。それで俺は東京行って、藤原と住んで。ヒデちゃんは大学行ってドラム叩いての繰り返し」
増川 「俺は浪人生……」
「だから落ちてどうするかは本人の好きだけど、俺らはライヴもガンガンやってくしどんどん転がしてくよっていう」
増川 「…………結構切羽つまってたな……」
直井 「でも結構日に焼けてた(笑)。だから俺ら相当その時キてた。覚えてるもん。友達と旅行行ったとか言ってて。『浪人生ってそういうもんなの』ってヒデちゃんに----そういう時俺は必ずヒデちゃんに聞いてた。ヒロに聞くと答えが返ってこないから。『ヒデちゃん、浪人生ってそんなに気楽なもんなの?』って」
「その頃なんか、藤原から『昨日も朝まで遊んだよ』みたいな話聞いて、へーって」
藤原 「もちろん遊んでる時は全然嬉しいよ」
直井 「そうそう。遊んだ後だよね。心配……じゃなくて疑問だよね(笑)。でも別に俺らは俺らでちゃんとバンドやってるわけだし。こいつもそれで来れないとか、、そういう有無を言わせない感じになってたよね」

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