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バンプ・オブ・チキン〜デビュー前夜〜
藤原 「時を同じくしてあのショーケース・ライヴの話があったんだよ。世の中怖えな、ハンコもなんも押してないのに俺ら所有物にされるとこだったぜって思ったりして。ヒヤっとしたねって言ってる時に、そのチャマが言ったマネージメントの話が出てきて。それでね、その頃ちょうどミュージカルやったんだよ」
「98年の頭どかだよね」
藤原 「『走る女』ってタイトルの。曲を書いてくれって頼まれて、主題歌とか登場人物のテーマとか書いたんだよ。そしたら凄い評価が良くて、演出家の人にぜひ生演奏でやってほしいって言われて。でもバンプオブチキンとして出す事できないから、役として出てって言われて。それで出た。俺アキヒトって名前だったな(笑)」
直井 「俺らあん中でかなりストイックなほうにはいってた(笑)、役に対して真剣だったし」
藤原 「そうそう。周りの役者より俺らのほうが、よっぽどストイックに芝居を作ろうとしてた。音楽担当だったから教えなきゃいけなかったし。めちゃめちゃ説教したよ年上のねーちゃんどもに。『やる気あるのかよ辞めちまえ!』とか(笑)。歌詞覚えてこないのとかあり得ねーとか思って、上手く歌えないのは怒る事じゃないけど、覚える事くらい誰だってできるじゃん。まあ俺もよく間違えるけど(笑)」
直井 「舞台監督さんとか演出家の人と話し合ったりしたよね。展開とかの提案したり。」
藤原 「だってさ芝居のアンケート、全部『バンドが良かった』って書いてあんの。完全に勝ちだよね。で、その芝居を制作会社の人が観に来てくれて、昼夜2公演だったんだけど、夜の部に来てくれて。で、終わった後に良かったら一緒にご飯食べようっていわれて、全員満身創痍のすっゲーボロボロな状態だったんだけど。俺もぎっくり腰みたいになってたし(笑)。で『お芝居良かったよ』って言ってくれて『ああいう形でバンプ見るのも新鮮で面白かったよ』って言う話をしたあとに、『実は今日は折り入って話しがあるんだけど』って言われて。よくよく考えて見みたら二人ともカチッとした格好してんだ」
藤原 「それで、『君たちと一緒にやっていきたい、ぜひ一緒にやって生きませんか?』って事を言われたの。告白されたって感じだった、愛を。で、『僕らの事を信用してくれてると思うんだけど、すぐに返事はしないでほしい。ミュージカルの千秋楽終わってからゆっくり考えてくれ、親にも相談してくれ』って言われて。なんか…ああ、すごくいい人達とめぐり合えたって実感が改めてあった。」
直井 「うん。だからお金出してくれる人も周りにたくさんいたし、そっちに転がったら楽な生活…やっぱバイトか死ぬほどツラかったし。自分達で管理するのもかなり限界きてたし。でも、そん中で本格的に、妥協せずに人だけを大切にしてた。その制作会社のひと達は俺らにお金の面での何とかじゃなくて、本当に気持ちだったから」
藤原 「気づいたらお金を出してくれてたって言うのはあったんだけど。そんなの俺は知らなかったりしてさ」
直井 「もうほんと、俺ら4人とも、ふたりに本当に惚れ込んでたから。だから『何をいまさら』って感じだったよね。はっきり覚えてんだけど、藤くんが『もう一緒にやってるじゃないか』って言ったの。俺らも同じ気持ちだった。だから相思相愛だったの。」
藤原 「で制作会社の人と契約したんだよね。…あの頃、とにかく楽しくて仕方がなかった。あと、真剣だった。楽しむ事や作り出すことに対して。」
直井 「あとこう……あの時期バンプ4人で、ちゃんと個人になりつつあった。ひとつの塊って言うよりも、ひとつひとつになりつつあったの。だから俺は個人的に3人に凄い刺激を受けてた。だから藤原がミュージカルで、自分だけを歌うだけじゃなくて、外から持ってきたアイディアも形にできるほどにレヴェルが上がってるのに『おおっ』って思ったり。ヒデちゃんは大学行ってるのに約束してる日を1日もサボった事ないとか。ヒロは…『浪人かあ』と思ってた(笑)。違うの、別にいいことばかりに刺激を受けてたんじゃなくて、そういうことなの。刺激なんて別に、良し悪しなんてないからさ。……とにかく俺は、みんなから凄い刺激を受けながら生きてたんだよね」

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